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連載コラム:PDF/Aとは何か?(第1回)

目次

1. 「PDFなら安心」という思い込みの罠

ビジネスの現場で「文書はPDF(Portable Document Formatで保存しておけば一生安泰だ」と考えている方は多いはずです。しかし、実はPDFは一枚岩ではありません。あなたが今、保存ボタンを押したそのPDFは、10年後、20年後のコンピュータで今と同じように開ける保証はあるでしょうか。

デジタル化が進む中で、私たちは「紙の劣化」からは解放されましたが、代わりに「データの風化」という新たなリスクを抱えることになりました。そのリスクを回避し、文書を「不変の資産」に変えるための国際規格。それが「PDF/A(ピーディーエフ・エー)」です。

2. PDFとPDF/A、決定的な「思想」の違い

通常のPDFとPDF/Aの最大の違いは、その「思想」にあります。

  • 通常のPDF(共有のための形式): 主な目的は、今の環境で「素早く、軽く、便利に」情報を伝えることです。ファイルサイズを削るために特定のデータを外部に依存させたり、便利な動的機能を盛り込んだりすることが許されています。
  • PDF/A(保存のための形式): 末尾の「A」は「Archive(アーカイブ=長期保存)」を意味します。目的はただ一つ、「100年後の未知のデバイスで開いても、今日と同じ見た目を限りなく100%に近い状態で再現すること」です。

一言で言えば、通常のPDFは「今この瞬間の手紙」であり、PDF/Aは「未来へ送るタイムカプセル」なのです。

3. 「自己完結」というタイムカプセルの仕組み

なぜPDF/Aは、未来でも正しく表示できると言い切れるのでしょうか。その秘密は「自己完結型」という構造にあります。通常のPDFには、以下のような「未来に繋がらない不確定要素」が含まれていることがあります。

  • フォントの外部参照: 「この文字はこのフォントで表示してね」という指示だけを出し、フォント自体はPC内のものを借りる仕組みです。しかし、10年後にそのフォントがPCに入っていなければ、文字化けしてしまいます。
  • 外部へのリンク: 文書内の画像やデータを外部サーバーから呼び出す形式です。リンク先が消えれば、文書は虫食い状態になります。

これに対しPDF/Aは、表示に必要な全ての要素(フォント、画像、色の設定)をファイルの中に無理やり閉じ込めます。 外の世界がどう変わろうと、ファイルの中にすべてが揃っているため、見た目が変わることがないのです。

4. 「あえて不便にしている」という驚きのルール

PDF/Aを保存しようとすると、一部の機能が使えなくなることがあります。これは「不便」にしているのではなく、将来のトラブルの種を摘み取るための「厳格なルール」です。

  • 動画・音声・JavaScriptの禁止: 今は動いても、数十年後の再生ソフトがそれらをサポートしている保証はありません。将来「再生できないエラー」を出さないよう、これらは一切排除されます。
  • ファイル直接のパスワード制限の禁止(原則): パスワードをかけた担当者が退職し、数十年後に誰も解除できなくなれば、そのデータは価値を失います。このようなリスクを排除するためには、保管するシステム側(サーバや書庫システム)でアクセス権限を管理するにより退避することができます。

5. デジタルデータには「賞味期限」がある

私たちは、紙が黄色く変色し、ボロボロになることは知っています。一方で、デジタルデータは劣化しないと信じがちです。しかし、実際には「読み取り環境が失われる」ことで、データは実質的に消滅します。

第1回のまとめとして、まずはこの事実を覚えておいてください。 「今見えているPDFが、明日も同じように見えるとは限らない」。次回は、この「油断」が招いた、金融・建設・医療の現場での戦慄のリスクをご紹介します。なぜ今、PDF/Aが必要とされているのか、そのリアリティに迫ります。

これらを踏まえて、コラムをこう締めくくると建設的です。

「すべてをPDF/Aにする必要はありません」 大切なのは、情報の「賞味期限」を見極めることです。

  • 日常のコミュニケーションは、軽くて便利な「通常のPDF」
  • 法的責任を伴うもの、歴史に残すべきものは、不変の「PDF/A」

この使い分けができるようになることこそが、デジタル時代の「正しい文書管理」への第一歩です。

なぜ、PDF/Aは「当たり前」になっていないのか?

1. 「作成の手間」と「ファイルサイズ」の壁

PDF/Aは、表示に必要なすべてのデータ(フォントやカラープロファイル)をファイル内に無理やり詰め込みます。その結果、通常のPDFに比べてファイルサイズが重くなる傾向があります。 また、作成時に「このフォントは埋め込めるか?」「禁止されている機能はないか?」というチェック(検証)が入るため、保存に数秒余計な時間がかかることも、スピード重視の現場では敬遠される理由です。

2. 編集や活用の「改ざんリスクの排除」

PDF/Aは「保存」のための形式であり、後から注釈を加えたり、ページを差し替えたりといった「加工」には向きません。

  • 編集制限: 多くのPDF編集ソフトでは、PDF/Aを開くと「アーカイブ表示モード(読み取り専用)」になり、編集するにはPDF/A設定を解除しなければなりません。
  • 利便性の排除: 便利なハイパーリンクやJavaScriptによる自動計算フォームも、PDF/Aでは「将来の動作不良リスク」として削除されてしまいます。

3. 「今、見られればいい」という短期的視点

多くのビジネス文書は、作成から数週間〜数ヶ月でその役割を終えます。 「100年後にこの見積書を読むか?」と問われれば、大半の書類はNOです。そのため、わざわざ制約の多いPDF/Aを選ばず、手軽に作成できる通常形式が選ばれ続けています。

4. 規格自体の「認知不足」

これが最大の理由かもしれません。多くのユーザーにとってPDFは「紙をデジタル化したもの」という認識で止まっており、その中に「共有用(PDF)」「長期保存用(PDF/A)」という用途の違いがあることは、ITリテラシーが高い層や、文書管理の専門家以外にはあまり知られていません。

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